誤解

ボイストレーナーと自己紹介すると必ず誤解されることがある。
歌が上手いと思われることだ。
どんな職業にも少なからず誤解・誤認識はあるだろう。ボイストレーナーという言葉は殊更に深く誤解されやすい気がする。
これは歌うの解釈や声の捉え方の違いから生まれているように思う。

‘歌う’とは何なのか。

「声」で演奏する

ざっくり言うとこんなところか。表現すると言ってもいいだろう。
「」の部分を別のモノにすると、また面白い。
ピアノ、クラリネット、ギター…様々な楽器に置き換えられる。
つまり、声は楽器から発する音色のことを呼ぶ。そう呼ぶからには声を生み出す仕組みを持つ僕ら(の身体)は楽器と呼べる。

次は‘歌う’自体に目をつける。

ピアノは弾く、クラリネットは吹く、ギターは弾く…歌うは使われないし、使われたところで慣れない。
ただ、‘ように’をつけた時にしっくりくる。
歌うように弾く、歌うように吹く…レッスンなどでよく耳にする言葉だ。では歌う‘ように’という言葉は何を指すのか。
奏者=楽器であることだ。

ピアノは奏者じゃないし、奏者はピアノではない。
他の楽器もしかりで、楽器と奏者は別個体である。
そんな中、楽器と奏者が同一である僕ら(の身体)は楽器界における唯一無二の存在なのである。
こう言うと最強の楽器だ!みたいに聞こえるかもしれないが、もちろん声にも不都合な部分がある。
換えが効かない点だ。

乱暴な表現だが、他の楽器は壊れたら他の新しい楽器を買えば済む話。
弦切れたから新しく張り直そうとか、あっちの方がいい音だから・いいデザインだから買い換えようとかできちゃうのだ。
別個体故の強みだ。
同一個体の僕らには、楽器だけを換えることができない。
楽器を換えることは即ち奏者も換えることになってしまう。
だからこそ他の楽器奏者以上に楽器を大切に・大事に・丁寧に扱い、メンテナンスする必要がある。

‘歌う’という言葉が僕らにだけ当てはまるのは
①楽器であり
②奏者である
という他の楽器には持ち得ない特徴があるからなのだろう。

‘歌う’をよりレベルアップさせるためには上記の2つを学ぶ必要がある。
とりわけ、①の勉強を深めて②との連動性を高めていくのがボイストレーニングの最初にして最大の役割だと考える。
②だけなら別の楽器を使って勉強することができるし、その方がシンプルでわかりやすいとさえ思う。
つまりボイストレーナーは楽器の問題を解決したり、問題を未然に防ぐ職業である。
ここまでお付き合いいただいた方にはもう伝わったと思うが、とどのつまりこのコラムで僕が言いたいことはこれである。

「俺に上手い演奏求めて絡んでくる輩はハラスメントだからやめろください(ボケが!!)」

あースッキリした。

日付:2018年9月20日

コラム

この記事を書いた人:武田

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